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表現者はプラカードを担いではいけない

大林宣彦監督「最後の講義」

昨年(2020年)4月10日、肺がんで余命宣告を受けながら「花筐/HANAGATAMI」「海辺の映画館」の長編映画2作品を完成させた真の映画監督、大林宣彦監督が亡くなった事はまだ強く記憶に残っています。

最後の情熱をふりしぼり映画に向き合う姿を記録したテレビ番組がいくつか追悼番組として放映されましたが、その一つ「最後の講義」(初放送2018年3月)の再放送を見て、印象に残った言葉があります。

表現者はプラカードを担いではいけない。それをするなら政治家になればいい」というものです。(黒澤明監督が大林宣彦監督に言った言葉だそうです。)

録画しておいた「最後の講義」を少し時間をおいてから見たのですが、丁度その頃、日本学術会議問題が話題になっており、正に表現者である映画人が抗議声明のプラカードを担いだニュースを知ったからです。

 

最後の講義 完全版 大林宣彦

最後の講義 完全版 大林宣彦

  • 作者:大林 宣彦
  • 発売日: 2020/02/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

日本学術会議問題に抗議のプラカードを担ぐ映画人

この問題を聞いたとき、日本学術会議のメンバーが内輪の推薦だけで何年も密室で選ばれていたことに、むしろ私は驚きました。外された人のインタビューを聞いても、学問の分からない政治家が口を出すなといった上から目線の言い方に反感を覚えました。だから、映画人による抗議声明には映画ファンとして素直に支持できない複雑な思いがあります。

特に藤田敏八監督最後の映画「リボルバー」の脚本家でもある荒井晴彦監督や「ガメラ」や「デスノート」といった娯楽作品の名作を作った金子修介監督(日活の「みんなあげちゃう」は傑作コメディ)も抗議声明に名前を連ねていることは意外でした。

抗議声明の発起人の一人森達也監督は、2020年10月13日Newsweek日本版で「日本学術会議問題に僕たち映画人が声を上げた理由」という記事を寄せています。その中で20年前に「アメリカのアフガン侵攻に対する抗議声明」の時は、是枝監督とともに参加を見送り、その理由として「映画はスローガンではない」と考えていたからだと言っています。つまり「表現者はプラカードを担ぐな」と同じ考えだったわけです。

しかし、日本学術会議問題については、ナチス台頭時代や米ソ冷戦時代のハリウッドの赤狩りになぞらえ、表現の自由が侵害されると大きなプラカードを担ぐのです。

ハリウッドの赤狩りの歴史を僕らは(森達也監督は)良く知っているから黙っていられないと言うのですが、アメリカの昔の出来事になぞらえなくても、権力により表現の自由が侵害された身近な事件として「日活ロマンポルノ裁判事件」があるのに忘れているのでしょうか。世間にアピールするなら、ダルトン・トランボを気取った方がかっこいいのかな。

この問題、その後聞かないなあと思っていたら、半年ぶり(4月20日)に文化人からまた抗議声明があがりました。その文化人の中には映画監督として山田洋次監督の名前がありました。